飛んでマカオ

気になる仕組みをしっかり解説

開発目線から見るフィンテック系サービスの法的勘所

はじめに

サーバーサイドのエンジニアを約7年経て、今年からFinTech系の事業開発を1から行うことになりました。

FinTech系のサービス開発では、"法的な規制がかからないスキームとなっているか"という観点がとても大事であり、かつ法律素人にはわかりにくい部分です。

個々のブログでは先人のみなさまが素敵な執筆をして頂いているのですが、「これをみれば80%勘所がわかる」といったまとめブログがなかったので書いてみようと思いました。

お断り

プロダクトオーナー・リードエンジニア等、事業立ち上げに関わるメンバーが事業リスクを大まかに把握するために勘所をつかむための内容です。
弁護士先生による法的な見解ではないことをご了承ください。

本題

ここで取り上げるFinTech系サービスとは、サービス内課金やC2Cの取引、クラウドファンディング等「ユーザーの資金が違う対象へと動く」という観点で定義しています。
アイテム課金投げ銭マーケット/取引資金調達
などに分類されるサービスを考えている方に関係がある内容となっています。

上記を設計する際に、頭に入れておいたほうがいい具体的な法律・規制を事例とともに列挙することで、フィージビリティ調査の役に立てればと思います。
(最終的な判断は、弁護士先生もしくは関係各庁からのお墨付きをもらうことを強くおすすめします。)

法律・規制紹介

A. 前払式支払手段(資金決済法)

特定のサービス内で使用できるポイントやコインで、かつ金銭を対価に発行されたものを指します。
商品券やIC型のプリペードカードから、「ポケモンGO」のポケコインや「メルカリ」のコイン等々、オフライン/オンライン問わずいろんなサービスで使われています。

発行体の店舗・サービスのみで使える自家型前払式支払手段と発行体の加盟店もしくは提携サービスで使える三者型前払式支払手段があります。

図1. 自家型前払式支払手段と第三者型前払式支払手段
図1. 自家型前払式支払手段と第三者型前払式支払手段

1. 該当時にかかる規制・コスト

三者型 or 自家型で届け出のタイミングが事前 or 事後と異なりますが、最も重いところとしては
未使用残高が1000万円以上に達した場合に残高の1/2を最寄りの供託所に供託する必要がある
という点です。

2. 該当性回避のポイント

下記観点でビジネススキームを調整することにより、規制回避の余地があると考えられます。

i) 6ヶ月以内に失効させる

発行の日から6ヶ月内に限って使えるものは規制の適用対象外とされています。
この方法が最もローコストで回避することができると思います。

実例) www.nintendo.co.jp

ii) 特定の使用用途のみに限定させる

提供するサービスの価値に大きく依存しますが、電車の乗車券やディズニーランドの入場券、松屋の食券等、使用用途を適用除外要件に限定させることで回避可能です。

参考)
事業者のみなさまからよくあるご質問
Q1. どのようなものが前払式支払手段に該当しますか?
一般社団法人日本資金決済業協会|前払式支払手段についてよくあるご質問【質問・回答】

iii) "使用"できることを義務としない

対価を払って発行した証票・ポイントに対し、何らの権利も付与しないという立て付けにする方法です。 たとえば、「金銭を対価とした発行者への応援の証として証票またはポイントが得られるが、その商標・ポイントを消費して何かできるわけではない」とかですね。 トリッキーかつグレーな方法に思えますが、こちらもローコストで規制の回避が可能と思われます。

実例)
タイムバンク 利用規約 第3条の6
タイムバンク - スキマ時間で特別な体験を

※ただしタイムバンクの場合は、購入したタイムを転売できることから、"払戻し"という特性を有すると解釈し前払式支払手段とは評価できない可能性もあります。 しかし払戻しの特性を有することにより規制が緩和される方向に解釈されるのはおかしいので、上記利用規約により規制回避していると捉えることが妥当と考えます。

iv) その他

一般社団法人日本資金決済業協会|前払式支払手段についてよくあるご質問【質問・回答】

より、下記記載があります。

本人であることを確認する手段等で証票等又は番号、記号その他の符号自体に は価値が存在せず、かつ、証票、電子機器その他のものに記録された財産的価値 との結びつきがないもの

これはよい実例がないので説明が難しいですが、例えばオンラインで購入した商品を店頭で受け取る際、本人確認書類とともに受け取りができる等のスキームで適用対象外となると思われます。
(たしか希少価値の高い限定スニーカーのオンライン抽選販売とかで類似したスキームがあった気がします。)

少し古いですが、前払式支払手段改正時のパブリックコメント(コメント番号: 6)が、この特記を詳しく説明していました。
https://www.fsa.go.jp/news/21/kinyu/20100301-2/01.pdf

3. その他気をつけるべき点

日本国家の法律ではありませんが、アプリ制作チームにとっては避けて通れない"Apple法"についてです。

App Store Reviewガイドライン - Apple Developer

3.1.1 App内課金:
・Appのコンテンツまたは機能は、App内課金を使用して解放する必要があります。
・App内課金で購入されたクレジットやゲーム内通貨に有効期限を設定することはできません。

上記より i) 6ヶ月以内に失効させる が使えないので、iOSアプリ内の有料ポイントに関しては実質前払式支払手段が適用される可能性が高いと思われます。

4. 参考

アプリ運営で気を付ける資金決済法入門その1 - アプリ開発の雑記帳

https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/05.pdf

B. 為替取引(資金決済法)

為替取引の定義を要約すると、
"2者間の資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、 これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること"
と捉えることができます。 2者間で行われる"投げ銭"や、2者間のC2C取引の資金を一時的に運営が預かる"エスクロー"を行う時は、為替取引の該当性への注意が必要です。

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図2. 為替取引の該当性に注意すべきビジネススキーム

為替取引の該当性を疑われてサービスを停止またはスキーム変更した代表例を下記に紹介しておきます。 it-bengosi.com toyokeizai.net

1. 該当時にかかる規制・コスト

資金移動業者としての業登録が必要です。
登録にかかるコストは調べておりませんが、本ブログ執筆時点で該当業者数は64社と少ないのでかなりハードルが高いと思われます。 (前払式支払手段の登録業者数は958社)

https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/shikin_idou.pdf

2. 該当性回避のポイント

下記観点でビジネススキームを調整することにより、規制回避の検討余地があると考えられます。

i) 収納代行スキーム

特に"エスクローモデル"で活用しやすいですが、買主と売主間の契約内容に、購入金額を代行業者がを代理受領権限を付与する内容を含ませた"収納代行スキーム"とすることで規制の適用対象外と解釈することができます。 この場合、あくまで売主の資金を一時的に預かることが目的であるため、資金の滞留は実務上合理的な期間にすることが望ましく、かつ代理受領の範囲を大きく超える業務にしてはいけないというのがポイントです。

2017年12月にメルカリが売上金の滞留を90日を限度にし、また売上金をそのまま次の商品購入に使えなくするルール変更を行ったのは、収納代行スキームの該当性を疑われていたからと解釈することができます。 また、この「メルカリルール」が今後の収納代行スキームの該当性を測る1つの基準とされていると言えます。

実例)
Polca 利用規約 第13条
polca(ポルカ)- ご利用規約

収納代行スキームはA・B間に資金を代理受領するという性質から、通常の売買契約と異なるため利用規約に明示してあるケースが多いです。

ii) マネジメント契約スキーム

"投げ銭モデル"でよく使われるスキームです。 芸能人と芸能事務所での契約に使われる言葉ですが、やってることはそれと一緒です。
2者間の投げ銭を直接的に渡すのではなく、仲介者がキックバックする比率を調整してBさんへと支払います。

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図3. マネジメント契約スキーム

"③アイテムもしくは情報"が課金式アイテム(Showroomや17Live)の場合や、コメントを目立たせるための装飾(Youtube Live Super Chat)、記事の評価(note クリエイターサポート)等、サービスによって対価の立て付けは異なりますが、Aさん<->運営の売買契約と、運営<->Bさんのマネジメント契約の2種類に別れているというのが特徴です。

3. その他気をつけるべき点

2-i) 「収納代行スキーム」ですが、今の所収納代行業が資金決済法上の為替取引(銀行法上のそれと同義)に該当する・しないと明確に定義された判例はないようなので、将来的にその指摘を受ける可能性もありそうです。 なのでA-3で説明した"前払式支払手段の該当性回避のポイント"とは明確に違い、いわゆる法律的にはグレーとされているという理解が正しそうです。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/dai2/siryou/20090114/01.pdf

4. 参考

メルカリ事例で学ぶ、CtoCサービスにおける資金決済法の罠 | STORIA法律事務所
SHOWROOMに学ぶ、資金決済法に抵触しない投げ銭サービスの作り方 | STORIA法律事務所

C. 預り金規制(出資法

金融庁ガイドラインによると、「預り金」とは預金等と同様の経済的性質を有するものとされており、次の4つの要件のすべてに該当するものとされています。

① 不特定かつ多数の者が相手であること
② 金銭の受け入れであること
③ 元本の返還が約されていること
④ 主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的とすること  

1. 該当時にかかる規制・コスト

銀行や信用金庫のような金融機関が適用除外の典型で、それ以外は違法とみなされています。

2. 該当性回避のポイント

タイムバンクはサービス内で行われる取引の元手となるユーザーの資金を、コンビニやネットバンクを介した「入金」機能によりサービス側に滞留させた後に使うことができます。

fali.jp

あくまでサービス内の取引を利用用途としているため、本質としては預り金とは別なのは理解できますが、機能が当規制に該当してしまっているように思えます。 (入金してそのまま出金したら預り金の機能性を帯びてしまっているので)

しかしどういうポイントで回避できているか、執筆時点では調べきれていません。
仮説としては以下2つが考えられますがいまいち納得感がないので、もし知っている方いましたらコメント等いただけると助かります。

  1. ソーシャルログインかつその事業規模から、"①不特定"として評価される蓋然性が低い可能性
  2. 決済代行を行っているメタップス社がなにか特定の業登録を済ませている可能性(しかしMBOを行ったので現在はタイムバンク社)

3. その他

後述の金融商品取引業者や仮想通貨交換業者は、購入のためのユーザー資産の保有(分別管理を原則とする)が認められていることから、預り金規制の適用外とされていると考えられます。

D. 集団投資スキーム(金商法)

多くの投資者から集めた資金により事業運営や有価証券等への投資を行い、その収益を出資者に分配する仕組みのことを指します。いわゆるファンドと呼ばれるモデルがすべて該当します。 WEB・アプリサービス界隈だと、クラウドファンディングの中で"投資型"と呼ばれるモデルが該当します。

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図4. 集団投資スキーム

1. 該当時の規制

金融商品取引業者としての業登録が必要です。 金融商品取引業の中でも第一種や第二種、投資助言・代理業など、取扱金融商品とビジネスモデルから業種は分かれます。

なかでも第二種金融商品取引業は、資本金1000万以上と関連の役員2名以上在籍という条件で業登録でき、執筆時点で1197社登録があることからもそこまで大きなコストを要しないと捉えることができます。
https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kinyushohin.pdf

購入型クラウドファンディング日本最大手のCAMPFIREグループが先日第二種金融商品取引業登録したことがニュースになりました。 prtimes.jp

2. 該当性回避のポイント

"多くのユーザーから資金を集める"というモデルにおいて、集団投資スキームの該当性を判断するには"金銭的見返りが発生するかどうか"という観点がポイントです。 募集者が集めた資金の対価として、配当はもちろんのこと優待などの権利においても金銭的な見返りが発生するものは該当性を高めてしまうので、サービス設計段階からの考慮が必要です。

実例)
VALU 利用規約 第11条(優待特典)
VALU | 利用規約

3. 参考

https://www.businessinsider.jp/post-104250

E. 貸金業貸金業法

貸金業法で、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介で業として行うものをいうと定義されています。 直近では、即時買取サービス「CASH」が初期リリース時に本規制の該当性を疑われましたが、事業者側は該当性を否定していました。 別の理由でサービスを一時停止したようですが、再開時には本規制にあたる機能は外されたので、現状は法的に全く問題ないかと思われます。

www.utali.io

1. 該当時にかかる規制・コスト

こちらも詳しくは調べていませんが、その業務性質と執筆時点での登録業者数(281社)を考えても、登録のコストはかなりハードルが高そうです。

https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kasi.pdf

2. 該当性回避のポイント

当初CASHは"ユーザーが商品を撮影し投稿した時点で売買処理が完了しており、15%の手数料による返金は返済ではなく売買のキャンセル処理"というロジックを組んでいるようでした。金融庁から指摘を受ける前に自主的に機能改修を行ったので、この立て付けが貸金業と評価される蓋然性をなくしているのかはわかりません。

また、CASHと同じく貸金業規制を疑われていた給与即日払いサービス「Payme」は、金融庁のグレーゾーン解消制度を利用し、"給与の前払いは労働基準法の範囲内である"という回答にて法的に問題のないことを明らかにしていました。

prtimes.jp

F. 仮想通貨交換業(資金決済法)

2017年4月に施行された改正資金資金決済法にて、仮想通貨交換業とは下記のように定義されています。

資金決済法2条7項 この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、 「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。

また、"仮想通貨"の定義も別途定められており、ざっくりまとめると、

1号仮想通貨
不特定の者に対して、代金の支払いや法定通貨との交換、購入・売買ができる財産的価値があり、法定通貨または法定通貨建て資産(プリペードカード等)ではないもの
2号仮想通貨
不特定の者に対して、1号仮想通貨と相互に交換ができる

と定義することができます。
(引用元: https://topcourt-law.com/virtual_currency/virtual_currency_low#2)

1. 該当時の規制

詳しくは調べていませんが、登録のハードルはかなり高いように思われます。

2. 該当性回避のポイント

仮想通貨取引所等の運営においてこの規制を回避することはまずできません。 他のビジネスモデルで、仮想通貨またはそれに類するものを使ってうまく規制を回避しているサービスを紹介します。

AVACUS (Avacus | Exchange Bitcoin and Products)

Shopperの代わりにAamzonでお買い物をすると、購入金額から数%割り引いた仮想通貨が自分のウォレットに振り込まれるという仕組みです。
"取引所で仮想通貨を購入する手間を省くため"に使われているサービスのようです。 仮想通貨の"交換"が行われているわけではないので、今の所仮想通貨交換業務としては見なされていないようです。 (いずれにせよトリッキーな仕組みですね。)

LCNEM (LCNEM, Inc.)

法定通貨担保型のステーブルコインプロジェクト。先に挙げた仮想通貨の定義により、"法定通貨または法定通貨建て資産"は仮想通貨に該当しない旨のノーアクションレター金融庁からもらっているようです。

LCNEMに関する金融庁への法令適用事前確認手続きに対する回答

ブロックチェーン上で発行していても実質は商品券と変わらないということで、"古物商許可"が必要である可能性があるという点が個人的にはとても面白く感じました。

まとめ

toC向けのフィンテック系サービスで、ユーザーのお金が流動するビジネスモデルにおいて、法的懸念となり得る法律・規制を列挙してみました。 規制内容とそれにかかるビジネススキームの説明が主になってしまい、実例としてのサービス・アプリの紹介があまり行えなかったので、それはまた別記事にてご紹介したいと思います。

追記

[2019.03.11]
本ブログに掲載している図はすべて、チャーリーさんの「ビジネスモデルツールキット」を一部活用し使わせて頂きました。
とても見やすく図が作れて素敵。

note.mu